その瞬間にしかない距離感
普段は、フィルムカメラをポケットに入れてよく夕方に散歩をします。夕方の光が好きなので。何を撮るのかは決めずに、どちらかというと反射的に撮っている感じ。以前ニューヨークに住んでいたのですが、今と同じようにカメラを持って夕方の街を歩いていたら、全身ピンクの服を着た人が走ってきたことがあって。その光景がめちゃくちゃ良くて、またその人に会えないかなと、同じ時間帯にカメラを持ってうろうろしていたのですが、結局現れることはありませんでした。「そこにいたらいいのにな」という意味も込めて、「Wish You Were There」というシリーズの作品をつくりました。ピンクの人物を切り取って、違う日の街の景色に貼り付けたり、人数を増やしてみたり。編集しながら作品としていろいろ意味を発見しつつ、また、単純におもしろいなという感覚でやってもいます。
ニューヨークに行って初めの2年間くらいを撮ったのが「STRANGER IN PARADISE」というシリーズです。ストレンジャーとしての自分が、さまざまな場所からストレンジャーが集まっている街で撮った、人と場所。あのときの自分じゃないと撮れなかった“距離感”だと思います。いま振り返ってみると、アメリカでの生活は英語でのコミュニケーションも含め、いろんなことがスムーズにいかないことも多くタフでしたが、魅力的な人との出会いや文化が刺激的でしたし、いろんな人に助けていただいて楽しく過ごせたなあと思っています。また今行ったらどんなことを感じるか気になっています。
そういえば、街を歩いていたときに新聞記者の人に声をかけられて、「亀を保護しているおばあちゃんがいるから撮ってきて」と頼まれたこともありました。家に行ってみたら、排泄物にまみれているような劣悪な環境だったんです。そんな無茶苦茶な流れで撮ることになったのですが、必死に集中して撮影していたら、終わりのほうで、おばあちゃんと亀の愛情みたいなものが可視化できたようなタイミングがあった。写真としてもすごく好きなものになりました。そのとき、物事のとらえ方というか、カメラを通して何か接することができたというか、「間」というものに少し近づけたような気がします。
反応と対応
仕事では、当たり前のことを当たり前にやるということ、当然関わった人に喜んでもらいたいと言う気持ちもあります。シンプルですが、しっかり準備して、現場で起こることに柔軟に対応できるような状態をつくりたいです。
ジャズミュージシャンの人たちと交流があって、ジャズの特徴の一つに即興演奏がありますが、彼らのような超絶プレイヤーたちも何年も毎日必ず地道な練習をしているという話を聞きました。だからこそ現場で起こることに意識的にも無意識的にも反応して、さらにそれを楽しんでいるように見えることもあります。
もうリスペクトしかないのですが、自分もそのようにいい状態でシャッターを切れたらいいなあと思っています。
映画もマンガも本も、いろんなものを見ます。見過ぎるだけだと飽和してくるので、一旦アウトプットしてまたインプットするというバランスを調整しながら。あと、最近はバスケをしたり、泳いだり、体を動かすようにしています。あくまで僕の場合はですが、フォトグラファーの仕事はどうしても肉体労働的な部分があるので、体がやっぱり大事かなと。できれば長く撮り続けたいものです。
最近気になる7つのこと
- 1. 面白かった映画
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『宝島』(ギヨーム・ブラック監督)
『PERFECT DAYS』(ヴィム・ヴェンダース監督)※2023年12月公開予定。まだ見ていませんが見たい作品です。 - 2. よく聞いている音楽
- Takuya Kuroda, Alfa Mist, Khruangbin, NewJeans
- 3. 好きな本
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Henry Roy『Ibiza Memories』
大橋裕之『夏の手』 - 4. 注目しているアーティスト
- 『Atlanta』のHiro Murai & Donald Glover監督の次回作を心待ちにしています。
- 5. お気に入りの場所
- 石垣島
- 6. 最近買ったもの
- New Balanceの靴
- 7. 気になっている撮影機材
- Hi8のビデオカメラ
1982年生まれ。慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。ロンドン大学ゴールドスミス校でファインアート専攻後、メディア学修士修了。 「美術手帖」「ARTnews JAPAN」編集部などを経て、フリーのエディター・ライター。