JOURNAL

SAIL Photography by Riku Ikeya
高校時代、ファッションから始まった写真 写真家としてのキャリアについては、専門学校や大学で写真を学んだわけではありません。高校生の頃、自分で撮影していた写真をSNSなどで公開していたら、あるスタイリストさんに声をかけていただいて。そこからだんだんとファッションの撮影につながっていくことになりました。僕にとって写真はファッションから始まっているといえると思います。 それと、僕の周りにスケボーをやっている友人が多くて、もともと動画やフィルムカメラで撮ったりもしていました。その写真をシルクスクリーンで刷ってTシャツにして、お小遣い稼ぎをしたりしていましたね。 撮りたいもの、伝えたいもの 今はその頃とは仕事の量は全然違いますが、当時から地続きで、やっていること自体はあまり変わっていません。自分の作品として撮るときは、3つほどのテーマがあるかなと思います。一つは、“時間経過”。例えば、音楽家の蓮沼執太さんが個人で出している12曲ほどの楽曲のビジュアルに、時間帯の異なる窓を写した作品を使っていただいているのですが、そこでは、人はいないけれど、いたような/いそうだな、という空気感のある場所を選んで撮影することで、時間の経過を表しました。もう一つは、ずっと撮り続けている“ランドスケープ”。そして、“人の後ろ姿”です。顔が見えない後ろ姿にすごく惹かれるので、撮りためていきたいな、と。今は人物を撮るのが一番好きかなと思います。いずれにしても、そのものをわかりやすく撮るというよりも、何か“気配”を感じさせるような写真を撮っているなと思いますね。 クライアントワークをするときは、ある程度自分で決めた撮影の題材やロケ場所に、どこに人物がいて……と、イメージが伝わるムードボードやレファレンスなどを決まって2、3パターンくらい用意します。ただ、「全部違うなあ」となることもあるし、決して自分もその通りに撮ろうと思っているわけではなくて、自己紹介の意味合いもあると思っていて。コミュニケーションの手段の一つのようなものだと思うんです。例えば、レファレンスのなかに、自分の好きなランドスケープの写真や、好きなミュージシャンのジャケット写真を入れたりもします。そこから、「好きな音楽なんですか?」と、スタッフの方々と会話もイメージも広がっていくこともあると思います。だから、最初に自分から提案するものを持っていくことを大切にしています。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 『建築と時間と妹島和世』(ホンマタカシ監督) 2. よく聞いている音楽 細野晴臣, Ecovillage, Cornelius 3. 好きな本 雑誌『WIRED』の「未来への退却(リトリート)」という特集号 4. 注目しているアーティスト Ecovillage 5. お気に入りの場所 友人のお店の当麻園芸と、京都にあるクマノワインハウス 6. 最近買ったもの 山野アンダーソン陽子さんのガラスコップ 7. 気になっている撮影機材 SIGMAのレンズ...
SAIL Photography by Riku Ikeya
高校時代、ファッションから始まった写真 写真家としてのキャリアについては、専門学校や大学で写真を学んだわけではありません。高校生の頃、自分で撮影していた写真をSNSなどで公開していたら、あるスタイリストさんに声をかけていただいて。そこからだんだんとファッションの撮影につながっていくことになりました。僕にとって写真はファッションから始まっているといえると思います。 それと、僕の周りにスケボーをやっている友人が多くて、もともと動画やフィルムカメラで撮ったりもしていました。その写真をシルクスクリーンで刷ってTシャツにして、お小遣い稼ぎをしたりしていましたね。 撮りたいもの、伝えたいもの 今はその頃とは仕事の量は全然違いますが、当時から地続きで、やっていること自体はあまり変わっていません。自分の作品として撮るときは、3つほどのテーマがあるかなと思います。一つは、“時間経過”。例えば、音楽家の蓮沼執太さんが個人で出している12曲ほどの楽曲のビジュアルに、時間帯の異なる窓を写した作品を使っていただいているのですが、そこでは、人はいないけれど、いたような/いそうだな、という空気感のある場所を選んで撮影することで、時間の経過を表しました。もう一つは、ずっと撮り続けている“ランドスケープ”。そして、“人の後ろ姿”です。顔が見えない後ろ姿にすごく惹かれるので、撮りためていきたいな、と。今は人物を撮るのが一番好きかなと思います。いずれにしても、そのものをわかりやすく撮るというよりも、何か“気配”を感じさせるような写真を撮っているなと思いますね。 クライアントワークをするときは、ある程度自分で決めた撮影の題材やロケ場所に、どこに人物がいて……と、イメージが伝わるムードボードやレファレンスなどを決まって2、3パターンくらい用意します。ただ、「全部違うなあ」となることもあるし、決して自分もその通りに撮ろうと思っているわけではなくて、自己紹介の意味合いもあると思っていて。コミュニケーションの手段の一つのようなものだと思うんです。例えば、レファレンスのなかに、自分の好きなランドスケープの写真や、好きなミュージシャンのジャケット写真を入れたりもします。そこから、「好きな音楽なんですか?」と、スタッフの方々と会話もイメージも広がっていくこともあると思います。だから、最初に自分から提案するものを持っていくことを大切にしています。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 『建築と時間と妹島和世』(ホンマタカシ監督) 2. よく聞いている音楽 細野晴臣, Ecovillage, Cornelius 3. 好きな本 雑誌『WIRED』の「未来への退却(リトリート)」という特集号 4. 注目しているアーティスト Ecovillage 5. お気に入りの場所 友人のお店の当麻園芸と、京都にあるクマノワインハウス 6. 最近買ったもの 山野アンダーソン陽子さんのガラスコップ 7. 気になっている撮影機材 SIGMAのレンズ...

SAIL Photography by Junpei Kato
一度“からっぽ”になって見つけた写真 僕は、高校までずっとサッカーをやっていたんですが、サッカーだけの生活が終わると、何も無くなってしまった。大学受験の準備はしていたのですが、あまり勉強が好きではなかったので、何かないかなあと探していた感じで。そんなとき、たまたま家にカメラがあったので、散歩しながら写真を撮り始めたんです。カメラに触れるようになったのはその頃ではあるのですが、特にやることも見つからないまま、とりあえず大学に進学しました。でも、どうも雰囲気に馴染めなくて半年ほどで辞めてしまいました(笑)。 その夏、鉄道で日本を旅したんですが、そのときにカメラに救われたというか、一人でも寂しくないと感じたのをすごく覚えています。僕は人に話しかけるのがあまり得意ではなかったので、カメラを持っていると人とコミュニケーションが取りやすくなって、カメラを通じて世界が広がったといえばいいでしょうか。旅にしても、どこかへ行きたいというよりも、どこかを撮りに行きたい、だから旅をする。というように、写真自体が目的になって、だんだんとのめり込んでいくことになりました。もう一つ、昔から“収集”することもどこか好きだったんだと思います。次はあれを撮ろう……と、集めていくような感覚が性に合っていたのかな、と。そうやってだんだんと「写真をやろう」と意思が固まっていった。それで半年間バイトして、写真の専門学校に入りました。きっと、僕にとって写真は、一度からっぽになって偶然見つけたものなのかもしれません。 被写体との距離感 今は、ランドスケープも物も人物も撮るし、広告、雑誌、ファッション……と、特に決めることもなくいろいろやっているので、ジャンルレスだなと思います。でも、どんなものでも被写体がいいと気分が上がりますね。撮影は被写体ありきなので、物、人物、風景にしても、いいものと出会ったときはシャッター数が多くなる気がします。 普段、建築を撮ることも多いのですが、建築に惹かれるのは、自分が生まれ育った横浜に理由があるのかもしれません。桜木町が開発される以前の更地のような状態だったところに、どんどん高層ビルが建設されて、まるで森のように人工物ができていく変遷を眺めていたのが、建築への興味につながっているのかなと思いました。 全体としての建築に興味はあるのですが、写真を撮るときは、その構造というよりも、壁のシミや汚れとか、その質感にすごく興味が湧きます。建物の要素としての、質感。もともとグラフィカルな撮り方も好きなので、そういった要素が“壁”につながって、ラインやテクスチャーに焦点を当てた「skin」という作品のシリーズにつながっているのだと思います。 仕事としての撮影の際は、光やトーンはもちろんですが、“自分が撮った”ということが感じられる被写体との距離感を大事にしています。技術的なことではあるけれど、レンズの選び方にしても、広角レンズをよく使うフォトグラファーもいれば、望遠レンズを好む人もいて、さまざまです。でも、それが被写体との距離に関わってくることだと思うし、その距離感が自分の個性にもなっているのではないでしょうか。僕の場合、距離感はニュートラルなんだと思います。 今後の生活拠点と制作について 下の「最近気になる7つのこと」でも触れているのですが、来年、山梨の八ヶ岳のあたりに家族と移住するんです。家を建てるにあたって、今、建築家さんに設計をお願いしているところなのですが、本当に楽しみです。高い山に囲まれていて、水も空気も美味しい。本当に空気が違うんですよね。その環境にいるだけですごく“休める”と感じます。 家が建つ過程を長期にわたって撮りためていきたいとも考えています。そのうち写真集や展示もやりたいですね。なかなか仕事が忙しくて自分の作品に集中できていない時間が続いているのですが、やっぱり「何を表現したいのか」と、自分と向き合うことを大切にしたいと感じることが増えてきていて、今の自分がそういう段階にあるのかなと思います。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 クリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』(2023年7月公開予定) 2. よく聞いている音楽 Nujabes, haruka nakamura, Bill Evans 3. 好きな本 『ARK JOURNAL』などのインテリア雑誌 4. 注目しているアーティスト 写真家のGerry Johansson...
SAIL Photography by Junpei Kato
一度“からっぽ”になって見つけた写真 僕は、高校までずっとサッカーをやっていたんですが、サッカーだけの生活が終わると、何も無くなってしまった。大学受験の準備はしていたのですが、あまり勉強が好きではなかったので、何かないかなあと探していた感じで。そんなとき、たまたま家にカメラがあったので、散歩しながら写真を撮り始めたんです。カメラに触れるようになったのはその頃ではあるのですが、特にやることも見つからないまま、とりあえず大学に進学しました。でも、どうも雰囲気に馴染めなくて半年ほどで辞めてしまいました(笑)。 その夏、鉄道で日本を旅したんですが、そのときにカメラに救われたというか、一人でも寂しくないと感じたのをすごく覚えています。僕は人に話しかけるのがあまり得意ではなかったので、カメラを持っていると人とコミュニケーションが取りやすくなって、カメラを通じて世界が広がったといえばいいでしょうか。旅にしても、どこかへ行きたいというよりも、どこかを撮りに行きたい、だから旅をする。というように、写真自体が目的になって、だんだんとのめり込んでいくことになりました。もう一つ、昔から“収集”することもどこか好きだったんだと思います。次はあれを撮ろう……と、集めていくような感覚が性に合っていたのかな、と。そうやってだんだんと「写真をやろう」と意思が固まっていった。それで半年間バイトして、写真の専門学校に入りました。きっと、僕にとって写真は、一度からっぽになって偶然見つけたものなのかもしれません。 被写体との距離感 今は、ランドスケープも物も人物も撮るし、広告、雑誌、ファッション……と、特に決めることもなくいろいろやっているので、ジャンルレスだなと思います。でも、どんなものでも被写体がいいと気分が上がりますね。撮影は被写体ありきなので、物、人物、風景にしても、いいものと出会ったときはシャッター数が多くなる気がします。 普段、建築を撮ることも多いのですが、建築に惹かれるのは、自分が生まれ育った横浜に理由があるのかもしれません。桜木町が開発される以前の更地のような状態だったところに、どんどん高層ビルが建設されて、まるで森のように人工物ができていく変遷を眺めていたのが、建築への興味につながっているのかなと思いました。 全体としての建築に興味はあるのですが、写真を撮るときは、その構造というよりも、壁のシミや汚れとか、その質感にすごく興味が湧きます。建物の要素としての、質感。もともとグラフィカルな撮り方も好きなので、そういった要素が“壁”につながって、ラインやテクスチャーに焦点を当てた「skin」という作品のシリーズにつながっているのだと思います。 仕事としての撮影の際は、光やトーンはもちろんですが、“自分が撮った”ということが感じられる被写体との距離感を大事にしています。技術的なことではあるけれど、レンズの選び方にしても、広角レンズをよく使うフォトグラファーもいれば、望遠レンズを好む人もいて、さまざまです。でも、それが被写体との距離に関わってくることだと思うし、その距離感が自分の個性にもなっているのではないでしょうか。僕の場合、距離感はニュートラルなんだと思います。 今後の生活拠点と制作について 下の「最近気になる7つのこと」でも触れているのですが、来年、山梨の八ヶ岳のあたりに家族と移住するんです。家を建てるにあたって、今、建築家さんに設計をお願いしているところなのですが、本当に楽しみです。高い山に囲まれていて、水も空気も美味しい。本当に空気が違うんですよね。その環境にいるだけですごく“休める”と感じます。 家が建つ過程を長期にわたって撮りためていきたいとも考えています。そのうち写真集や展示もやりたいですね。なかなか仕事が忙しくて自分の作品に集中できていない時間が続いているのですが、やっぱり「何を表現したいのか」と、自分と向き合うことを大切にしたいと感じることが増えてきていて、今の自分がそういう段階にあるのかなと思います。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 クリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』(2023年7月公開予定) 2. よく聞いている音楽 Nujabes, haruka nakamura, Bill Evans 3. 好きな本 『ARK JOURNAL』などのインテリア雑誌 4. 注目しているアーティスト 写真家のGerry Johansson...

SAIL Photography by Mai Kise
環境を変えると、マインドも変わる 私は普段、家にこもって考えることはあまりしません。すごく疲れているときは休みますが、家でダラダラするのは3時間が限界で(笑)。“環境を変える”ことがマインドに大きく影響していると思います。天気が良ければ朝6時頃には起きて、一人でどこかへ。特にドライブが好きで、山などの自然がある場所に向かいます。運転しながら見ている景色が変化するにつれて、思考も変わっていくのが自分でもわかるんですよね。その時間がすごく好きで。何かをしに行くというよりも、ただドライブして、美味しいものを食べて帰ってくる……そんな感じです。 でも実は、自分の作品として考えるとき、日本の風景を撮りたいとは全然思えないんです。もちろん日本は大好きですが、被写体として上手く撮れないと感じてしまう。海外の人が撮る日本の写真のように魅力的に撮れないというのも一つの理由ですし、日本独特の湿度感なのか、そこにある“陰と陽”という気配のせいなのか、自分の生まれ育った国だからこそ、その土地の背景を考えたり、感じすぎているのかもしれませんね。いまだに上手く撮れない。海外に行くと、「わ、すごいきれい!」と初めての感動だけで素直に撮れたりします。でも、いろんなことをひっくるめていつかもっと人間として大きくなれたら、日本を撮ってみたいです。 そんな理由から、これまで1年に2カ月ほどは休みをとって、海外に行くようにしていました。数日間の旅行も多くの経験がありますが、一方で、いいところだけしか見たり感じたりしていない場合もあります。でも、1、2年滞在できるとなれば時間にも多少の余裕ができて、もう少しその土地の内部が見えてくると思う。ローカルな人々の生活に接すると、より深い気づきがある。そのことによって、自分が生まれた日本とはどんな国なのか、と考えるきっかけにもなるのではと思います。その経験は自分にとってとても大きかったです。 ちょっと“変なもの”に目を向けて、撮っていたい 私が写真を始めたきっかけは、もともとはテレビ番組の制作に関わりたいと思っていたのですが、大学受験で写真学科しか受からなかったからなんです(笑)。ところが、いざ写真をやり始めたら、化学的な要素もあれば、記録としての要素、絵的な要素……と、いろいろな深さがあって、写真がすごく面白くなってしまった。気づけば、「写真でごはんを食べていきたい」と考えるようになっていました。 撮影するときは、やっぱり、自然光を大事にしています。仕事では照明機材も使いますが、自分の作品撮りでは自然光のみ。とにかく荷物を少なくして、行き先を決めずに自転車や徒歩で撮るのが好きで、アメリカに2年ほど住んでいたときも携帯とチャリンコ、それと時々ビールがあれば、それで十分!という日々を過ごしていました。その合間に、光がいいときに写真を撮る、という感じです。 それと、カメラを向けたいと思う瞬間は、変なものや変な人を見つけたときです。“変”というのは、つっこみたくなる感じといえばいいでしょうか。私は京都の生まれなので、関西人の血なのかもしれませんね。一つのたとえですが、服のサイズ感が本人に合ってないな……とつっこみたくなる若者とすれ違って、「私だったらそれは選ばないな」と思うことがある。そうやって、この人は何を考えてるのかな、自分とは違う感覚を持ってるんだなと感じると、声をかけて写真を撮らせてもらいます。そしてその違いをとても魅力的なことだと感じます。 自分で撮った写真をあとで見返してみると、ただ「気持ちいい!」と思う写真ではないんですよね。例えば自然を見て、美しいな、素敵だなとはもちろん思うのですが、その瞬間に自分の目で見ている以上のものを、私は撮れない。それよりも、少し不思議に感じる風景、例えば、アスファルトからちょろっと生えている草とか、人のまばたきの瞬間とか、そういうものを撮っているなと改めて見て思います。素直ではない(笑)。 今年はどこかのタイミングで写真展をやりたいですね。展示も一つの大きなコミュニケーションツールだと思っているので、見てくれる人に感じてもらえる何かを入れ込みたい。気づきがあったり、ハッとさせられるものだったり。何かを持ち帰ってもらえるようなものができたらいいなと思っています。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 Netflixオリジナル『マリッジストーリー』 2. よく聞いている音楽 ダイアナ・ロス『I’m Coming Out』 3. 好きな本 マリーン・シェルドレイク『菌類が世界を救う キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力』 安田佳澄『フールナイト』 4. 注目しているアーティスト 特になし 5. お気に入りの場所 八ヶ岳周辺...
SAIL Photography by Mai Kise
環境を変えると、マインドも変わる 私は普段、家にこもって考えることはあまりしません。すごく疲れているときは休みますが、家でダラダラするのは3時間が限界で(笑)。“環境を変える”ことがマインドに大きく影響していると思います。天気が良ければ朝6時頃には起きて、一人でどこかへ。特にドライブが好きで、山などの自然がある場所に向かいます。運転しながら見ている景色が変化するにつれて、思考も変わっていくのが自分でもわかるんですよね。その時間がすごく好きで。何かをしに行くというよりも、ただドライブして、美味しいものを食べて帰ってくる……そんな感じです。 でも実は、自分の作品として考えるとき、日本の風景を撮りたいとは全然思えないんです。もちろん日本は大好きですが、被写体として上手く撮れないと感じてしまう。海外の人が撮る日本の写真のように魅力的に撮れないというのも一つの理由ですし、日本独特の湿度感なのか、そこにある“陰と陽”という気配のせいなのか、自分の生まれ育った国だからこそ、その土地の背景を考えたり、感じすぎているのかもしれませんね。いまだに上手く撮れない。海外に行くと、「わ、すごいきれい!」と初めての感動だけで素直に撮れたりします。でも、いろんなことをひっくるめていつかもっと人間として大きくなれたら、日本を撮ってみたいです。 そんな理由から、これまで1年に2カ月ほどは休みをとって、海外に行くようにしていました。数日間の旅行も多くの経験がありますが、一方で、いいところだけしか見たり感じたりしていない場合もあります。でも、1、2年滞在できるとなれば時間にも多少の余裕ができて、もう少しその土地の内部が見えてくると思う。ローカルな人々の生活に接すると、より深い気づきがある。そのことによって、自分が生まれた日本とはどんな国なのか、と考えるきっかけにもなるのではと思います。その経験は自分にとってとても大きかったです。 ちょっと“変なもの”に目を向けて、撮っていたい 私が写真を始めたきっかけは、もともとはテレビ番組の制作に関わりたいと思っていたのですが、大学受験で写真学科しか受からなかったからなんです(笑)。ところが、いざ写真をやり始めたら、化学的な要素もあれば、記録としての要素、絵的な要素……と、いろいろな深さがあって、写真がすごく面白くなってしまった。気づけば、「写真でごはんを食べていきたい」と考えるようになっていました。 撮影するときは、やっぱり、自然光を大事にしています。仕事では照明機材も使いますが、自分の作品撮りでは自然光のみ。とにかく荷物を少なくして、行き先を決めずに自転車や徒歩で撮るのが好きで、アメリカに2年ほど住んでいたときも携帯とチャリンコ、それと時々ビールがあれば、それで十分!という日々を過ごしていました。その合間に、光がいいときに写真を撮る、という感じです。 それと、カメラを向けたいと思う瞬間は、変なものや変な人を見つけたときです。“変”というのは、つっこみたくなる感じといえばいいでしょうか。私は京都の生まれなので、関西人の血なのかもしれませんね。一つのたとえですが、服のサイズ感が本人に合ってないな……とつっこみたくなる若者とすれ違って、「私だったらそれは選ばないな」と思うことがある。そうやって、この人は何を考えてるのかな、自分とは違う感覚を持ってるんだなと感じると、声をかけて写真を撮らせてもらいます。そしてその違いをとても魅力的なことだと感じます。 自分で撮った写真をあとで見返してみると、ただ「気持ちいい!」と思う写真ではないんですよね。例えば自然を見て、美しいな、素敵だなとはもちろん思うのですが、その瞬間に自分の目で見ている以上のものを、私は撮れない。それよりも、少し不思議に感じる風景、例えば、アスファルトからちょろっと生えている草とか、人のまばたきの瞬間とか、そういうものを撮っているなと改めて見て思います。素直ではない(笑)。 今年はどこかのタイミングで写真展をやりたいですね。展示も一つの大きなコミュニケーションツールだと思っているので、見てくれる人に感じてもらえる何かを入れ込みたい。気づきがあったり、ハッとさせられるものだったり。何かを持ち帰ってもらえるようなものができたらいいなと思っています。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 Netflixオリジナル『マリッジストーリー』 2. よく聞いている音楽 ダイアナ・ロス『I’m Coming Out』 3. 好きな本 マリーン・シェルドレイク『菌類が世界を救う キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力』 安田佳澄『フールナイト』 4. 注目しているアーティスト 特になし 5. お気に入りの場所 八ヶ岳周辺...

SAIL Photography by Masumi Ishida
日々のなかの光を感じる時間 オフの日には、午前中に自分の家のことを済ませて、昼過ぎから一人で出かけ、夕ご飯は友達と集まる。そんな一日が理想ですね。でも、誰とも会わずに、小説やドラマ、漫画を見て過ごす一日もまた大事です。気分がちょっと落ち込んだときは、一人で好きなものを食べに行くこともあるし、気の置けない友人と少人数でご飯へ出かけることで、少し気分転換をしています。 私は、広告や雑誌が大好きで、それをつくる人になりたいとずっと考えていたんです。また、写真を撮ることも好きだったので、写真を通して広告や雑誌に関わることができたらいいなと学生の頃から思っていました。 いま、撮影する時に大事にしていることは、撮っている相手がどんな気持ちかを想像すること。そして、“光を見る”ことです。例えばバスに乗っているとき、窓から差し込む光がバスの動きと同じように揺らぐ様子を、一番後ろの座席から眺めている時間も好きです。 誰かと旅行をするなかでアイデアに出合うこともよくありますね。一定の時間を誰かと一緒に生活すること自体に興味があって。知らないものを見たり、食べたり、初めての街を歩きながら写真を撮る時間もとても大切にしています。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 『恋は光』(小林啓一監督) 2. よく聞いている音楽 高木正勝『girls』 3. 好きな本 中村新一『アースダイバー』 安田佳澄『フールナイト』 4. 注目しているアーティスト なし 5. お気に入りの場所 駒場野公園 6. 最近買ったもの 不二家のサンリオキャラクターズチョコレート(全種) 7. 気になっている撮影機材 なし 2019 everything...
SAIL Photography by Masumi Ishida
日々のなかの光を感じる時間 オフの日には、午前中に自分の家のことを済ませて、昼過ぎから一人で出かけ、夕ご飯は友達と集まる。そんな一日が理想ですね。でも、誰とも会わずに、小説やドラマ、漫画を見て過ごす一日もまた大事です。気分がちょっと落ち込んだときは、一人で好きなものを食べに行くこともあるし、気の置けない友人と少人数でご飯へ出かけることで、少し気分転換をしています。 私は、広告や雑誌が大好きで、それをつくる人になりたいとずっと考えていたんです。また、写真を撮ることも好きだったので、写真を通して広告や雑誌に関わることができたらいいなと学生の頃から思っていました。 いま、撮影する時に大事にしていることは、撮っている相手がどんな気持ちかを想像すること。そして、“光を見る”ことです。例えばバスに乗っているとき、窓から差し込む光がバスの動きと同じように揺らぐ様子を、一番後ろの座席から眺めている時間も好きです。 誰かと旅行をするなかでアイデアに出合うこともよくありますね。一定の時間を誰かと一緒に生活すること自体に興味があって。知らないものを見たり、食べたり、初めての街を歩きながら写真を撮る時間もとても大切にしています。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 『恋は光』(小林啓一監督) 2. よく聞いている音楽 高木正勝『girls』 3. 好きな本 中村新一『アースダイバー』 安田佳澄『フールナイト』 4. 注目しているアーティスト なし 5. お気に入りの場所 駒場野公園 6. 最近買ったもの 不二家のサンリオキャラクターズチョコレート(全種) 7. 気になっている撮影機材 なし 2019 everything...

SAIL Photography by Kohei Kawatani
写真を撮ること、日々のなかで大切に思うこと 父親のカメラが家にあったので、子どもの頃からカメラはけっこう身近な存在ではあったのですが、本格的に写真を撮り始めたのは高校生のとき。地元にある美術館でやっていた奈良原一高さんの回顧展を見て、モノクロ写真の存在感にうわってやられてしまった。写真って人の感情をここまで動かせるんだと、衝撃でした。 写真は「誰でも撮れる」ということが大きな魅力で、自分が写真を長く楽しんでいられる一つの理由だとも思います。高校生のときに写真を撮り始めて、成長するにつれて、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションが画像中心になっていった流れも、写真にのめり込んでいったことの要因だと思います。誰でも撮れる、誰でも参加できるという、今日の写真と、それを取り巻く環境みたいなところも面白い。 そうやって、写真は撮ろうと思えば誰でも撮れてしまうもの。しかし、それと同時にコントロールできない部分も多くて、外部の環境に大きく依拠するメディアだと思う。僕は、偶然目の前で何かが起きたり、自分の思い通りにならない点を楽しんでいます。外から偶然にやってくる何か。それによって変化する自分ごと面白がりたいなと。作品をつくるときも2つの軸があって、フェティッシュや美意識といった私的な要素で完結している作品と、その要素に、機械的に乱数や自動生成、プログラムなどを使って編集行為を行い、撮影時におけるコントロールできない環境のような要素を、偶然性を持つ“他者”のように見立てて取り入れている作品もあります。そのような作品では、機械的に編集されたものを、また主体的に操作したり、さらにまた偶然性を取り入れたり、一つの作品という構造の中で主客をループさせたりしています。そのようなプロセスのもつ“他者性”は、どこか写真におけるフィジカルな撮影行為に似ていると思っています。 普段の自分は、朝起きて、撮影があれば現場に行って、外で済ませる用事があればやって、その合間に映画を見たり展示に出かけたり。決まったルーティーンは特にないのですが、カメラを持ち歩いているときは、ものすごく狭い範囲の場所に視野を絞って、普通は人が意識しないような、比較的狭い世界でどんなことが起きているか。そんな視点で物事を見ているかもしれません。また、作品をつくるときでもクライアントワークでも、同じことを長く飽きずに続けていくことよりも、少しずつ新しいことを取り入れることに重きを置いていて、それによって起こる感じ方や考え方の変化を楽しもうとしています。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 『Everything Everywhere All at Once』 (ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督) 2. よく聞いている音楽 XG、Ice Spice 3. 好きな本 Roe Ethridge『AMERICAN POLYCHRONIC』 4. 注目しているアーティスト XG 5. お気に入りの場所 グランドシネマサンシャイン池袋 シアター12...
SAIL Photography by Kohei Kawatani
写真を撮ること、日々のなかで大切に思うこと 父親のカメラが家にあったので、子どもの頃からカメラはけっこう身近な存在ではあったのですが、本格的に写真を撮り始めたのは高校生のとき。地元にある美術館でやっていた奈良原一高さんの回顧展を見て、モノクロ写真の存在感にうわってやられてしまった。写真って人の感情をここまで動かせるんだと、衝撃でした。 写真は「誰でも撮れる」ということが大きな魅力で、自分が写真を長く楽しんでいられる一つの理由だとも思います。高校生のときに写真を撮り始めて、成長するにつれて、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションが画像中心になっていった流れも、写真にのめり込んでいったことの要因だと思います。誰でも撮れる、誰でも参加できるという、今日の写真と、それを取り巻く環境みたいなところも面白い。 そうやって、写真は撮ろうと思えば誰でも撮れてしまうもの。しかし、それと同時にコントロールできない部分も多くて、外部の環境に大きく依拠するメディアだと思う。僕は、偶然目の前で何かが起きたり、自分の思い通りにならない点を楽しんでいます。外から偶然にやってくる何か。それによって変化する自分ごと面白がりたいなと。作品をつくるときも2つの軸があって、フェティッシュや美意識といった私的な要素で完結している作品と、その要素に、機械的に乱数や自動生成、プログラムなどを使って編集行為を行い、撮影時におけるコントロールできない環境のような要素を、偶然性を持つ“他者”のように見立てて取り入れている作品もあります。そのような作品では、機械的に編集されたものを、また主体的に操作したり、さらにまた偶然性を取り入れたり、一つの作品という構造の中で主客をループさせたりしています。そのようなプロセスのもつ“他者性”は、どこか写真におけるフィジカルな撮影行為に似ていると思っています。 普段の自分は、朝起きて、撮影があれば現場に行って、外で済ませる用事があればやって、その合間に映画を見たり展示に出かけたり。決まったルーティーンは特にないのですが、カメラを持ち歩いているときは、ものすごく狭い範囲の場所に視野を絞って、普通は人が意識しないような、比較的狭い世界でどんなことが起きているか。そんな視点で物事を見ているかもしれません。また、作品をつくるときでもクライアントワークでも、同じことを長く飽きずに続けていくことよりも、少しずつ新しいことを取り入れることに重きを置いていて、それによって起こる感じ方や考え方の変化を楽しもうとしています。 最近気になる7つのこと 1. 面白かった映画 『Everything Everywhere All at Once』 (ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督) 2. よく聞いている音楽 XG、Ice Spice 3. 好きな本 Roe Ethridge『AMERICAN POLYCHRONIC』 4. 注目しているアーティスト XG 5. お気に入りの場所 グランドシネマサンシャイン池袋 シアター12...

