意図や思い、そして心の傷
作品があって、見てくれる人がいて、本当は、それで終わりでいいと思う。自由に感じてもらえたら、と。でも僕自身は、どうしてこうなったのかなとか、その根源はどこにあるのかなと、掘り下げて考えることが昔から好きなんですよね。両親が美術に携わっている環境で育ったことも関係しているのかもしれません。小さい時に親と一緒に抽象画を見たことがあって、何が描かれているのかまったくわからなかったんですけど「きっとこの絵を描いた人は心に何か傷を持っているのかもしれない。それで、こういう色彩や形になったんじゃないかな」と、見方を教えてくれたんです。それは、合っているかどうかが問題なのではなく、何が表現されているのか想像しなさいという意味だったと思う。そこから絵画がすごく好きなりました。
ビジュアル的に良ければ、それだけで写真が完成することももちろんあると思います。でも、直接的ではなくても、作品の中に制作者の意図や思い、さらに、心の傷みたいなものがどこかに感じられると、もっとその作品が好きになる、愛せるものになると思う。その感覚をすごく大切にしています。
今、3部作の展覧会を段階的にやっているところで、1作目は「isolation」、2作目は「Self harm」というタイトルにしました。isolationは「孤立」という意味でネガティブにも聞こえる言葉ですが、写っている人物は一人ではなく二人。「記憶の回想」というのがテーマの根源にあって、例えば、僕が生まれる前に両親が出会った風景を、「時間」というフィルターを通して可視化するようなイメージです。それは決して鮮明ではない景色なので、フィルムで撮影したものを複写して、プリントして、さらに複写するという行為を繰り返してできた作品です。現在の記憶と、何年も前に見た光景と感情を、擦り合わせると同時に遠ざけるような感覚でもありますね。また、2作目でも複写を繰り返す作業を継続しているのですが、Self harm=自傷行為という言葉のように、景色を撮ったフィルムに傷をつけて制作し、1作目とはまた異なる表現に挑戦しました。
写真との出会いと、
見るたびに発見がある写真
僕は中学卒業後から一人暮らしをしていて、写真の専門学校も美大も行っていないので、写真は独学です。20歳の時に、ライカのM6を父から譲り受けたことがカメラを触った初めての体験に近くて。初めは“オブジェ”として好きな程度だったのですが、ある日、写真展で平間至さんの写真に出会ったんです。もうとにかく感動してすぐに連絡を入れて、インターンとして働かせてもらうことになりました。僕はフィルム交換の仕方から教えてもらわないとならないほどカメラの使い方を知らなかったのですが、撮影後の車の中で「あの夕日、どんなふうに見える?」と平間さんと話したり、自分がどう感じるのかを整理していくような、刺激を受けた時間はすごく大切な思い出です。
写真に出会ってから、ずっと写真が好き。ただ、自分の体があるのは当たり前のことではなく、明日どうなるかはわかりません。そういうことをどこかで意識しながらも、皆さんに観てもらって少しでも興味を持ってもらえるような作品をつくっていきたいですね。一つの作品なのに、見るたびに新しく感じることがあるような、“成長する作品”をつくりたいです。
最近気になる7つのこと
- 1. 面白かった映画
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『オアシス』(イ・チャンドン監督)
『あの夏、いちばん静かな海。』(北野武監督)
『神のゆらぎ』(ダニエル・グルー監督) - 2. よく聞いている音楽
- 江崎文武, naomi paris tokyo
- 3. 好きな本
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E.H.ゴンブリッチ『芸術と幻影』
ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』 - 4. 注目しているアーティスト
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- 5. お気に入りの場所
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- 6. 最近買ったもの
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- 7. 気になっている撮影機材
- Hasselblad 907X CFV Ⅱ 50C
1982年生まれ。慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。ロンドン大学ゴールドスミス校でファインアート専攻後、メディア学修士修了。 「美術手帖」「ARTnews JAPAN」編集部などを経て、フリーのエディター・ライター。