写真を撮ること、日々のなかで大切に思うこと
父親のカメラが家にあったので、子どもの頃からカメラはけっこう身近な存在ではあったのですが、本格的に写真を撮り始めたのは高校生のとき。地元にある美術館でやっていた奈良原一高さんの回顧展を見て、モノクロ写真の存在感にうわってやられてしまった。写真って人の感情をここまで動かせるんだと、衝撃でした。
写真は「誰でも撮れる」ということが大きな魅力で、自分が写真を長く楽しんでいられる一つの理由だとも思います。高校生のときに写真を撮り始めて、成長するにつれて、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションが画像中心になっていった流れも、写真にのめり込んでいったことの要因だと思います。誰でも撮れる、誰でも参加できるという、今日の写真と、それを取り巻く環境みたいなところも面白い。
そうやって、写真は撮ろうと思えば誰でも撮れてしまうもの。しかし、それと同時にコントロールできない部分も多くて、外部の環境に大きく依拠するメディアだと思う。僕は、偶然目の前で何かが起きたり、自分の思い通りにならない点を楽しんでいます。外から偶然にやってくる何か。それによって変化する自分ごと面白がりたいなと。作品をつくるときも2つの軸があって、フェティッシュや美意識といった私的な要素で完結している作品と、その要素に、機械的に乱数や自動生成、プログラムなどを使って編集行為を行い、撮影時におけるコントロールできない環境のような要素を、偶然性を持つ“他者”のように見立てて取り入れている作品もあります。そのような作品では、機械的に編集されたものを、また主体的に操作したり、さらにまた偶然性を取り入れたり、一つの作品という構造の中で主客をループさせたりしています。そのようなプロセスのもつ“他者性”は、どこか写真におけるフィジカルな撮影行為に似ていると思っています。
普段の自分は、朝起きて、撮影があれば現場に行って、外で済ませる用事があればやって、その合間に映画を見たり展示に出かけたり。決まったルーティーンは特にないのですが、カメラを持ち歩いているときは、ものすごく狭い範囲の場所に視野を絞って、普通は人が意識しないような、比較的狭い世界でどんなことが起きているか。そんな視点で物事を見ているかもしれません。また、作品をつくるときでもクライアントワークでも、同じことを長く飽きずに続けていくことよりも、少しずつ新しいことを取り入れることに重きを置いていて、それによって起こる感じ方や考え方の変化を楽しもうとしています。
最近気になる7つのこと
- 1. 面白かった映画
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『Everything Everywhere All at Once』
(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督) - 2. よく聞いている音楽
- XG、Ice Spice
- 3. 好きな本
- Roe Ethridge『AMERICAN POLYCHRONIC』
- 4. 注目しているアーティスト
- XG
- 5. お気に入りの場所
- グランドシネマサンシャイン池袋 シアター12
- 6. 最近買ったもの
- Rinwellのチャイチョコレートバー
- 7. 気になっている撮影機材
- X1D II 50C
1982年生まれ。慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。ロンドン大学ゴールドスミス校でファインアート専攻後、メディア学修士修了。 「美術手帖」「ARTnews JAPAN」編集部などを経て、フリーのエディター・ライター。