30歳でスタートした写真の道
皆さんもそうだと思うのですが、コロナ禍ではなかなか海外に行くことが難しかったですよね。コロナ前もあまり海外へ旅することをしてこなかったのですが、今はいろんな国へ行ってみたいという思いがすごく強くなりました。仕事を休みなく詰め込んでしまっている時期が長く続いていたので、これじゃいけないなという思いもあって。これからは少し余裕を持ってお休みを取りつつ、いろんなところへ足を運んでバランスを取っていきたいと思っています。次に行きたいのは、友人も住んでいるニューヨークです。
18歳のときに沖縄から上京して就職しました。学生時代はマーチングバンド部に入っていて部活漬けの日々を過ごしていたのですが、そのまま社会人チームに入った感じです。でも、自分が本当に何をやりたいかはわからずにいました。一方で、洋服は好きだったんです。『Purple』誌に出会って、マーク・ボスウィックや、アンダース・エドストローム、鈴木親さんなどの作家性を持つかっこいい写真を見て、私が今まで見ていたファッション雑誌とまったく違うことに衝撃を受けました。
そのことがきっかけとなって、Purple誌とも交流のあるPoetry of sex(故・千葉慎二氏が手がけていたブランド)で働かせてもらうチャンスをいただいたんです。本当に刺激的な毎日を送る中で、だんだんとプライベートで写真を撮るようになっていきました。4、5年働いた後、「年齢も年齢だし、今、ちゃんとやらないと!」と思い立って。遅まきながら30歳のときに写真スタジオに転職して、アシスタントを経て独立したという経緯があります。
ほどけた瞬間を撮る
できているかはわからないですが、ドキュメンタリーとファッションが融合した写真を撮りたいなって、ずっと思っています。モデルさんを撮るときも、カメラを構えて「さあ、撮ります」となるとモデルさんも構えてしまうので、立ち位置に入ってもらった瞬間を撮ったり、「今日は終わりです」と言って何かがほどけたところで撮ったりします。盗み撮りみたいですね(笑)。仕事以外では人も風景も好きで撮るのですが、やっぱり盗み撮りに近くて。構えていない瞬間を撮りたいと思うんです。風景は、例えばガラス越しに撮ると、反射した光がきらきらとしてきれいで、そうやっていつもと違う感じに見える要素を何か入れるようにしている感じがします。
写真を仕事に選んでから8年ほどが経ちますが、最近、初心にかえることは大事だなと改めて思います。仕事ではどうしても「ちゃんと見えるように、ここは絶対に写さないといけない」と意識が集中してしまうのですが、その延長線で普段の写真でも“ちゃんと”撮るようになってしまって。例えば、昔は横位置で撮っていたのに、自然と縦位置で撮ってしまうことが多くなっているというように……。今改めて、自由に撮る感覚を思い出して、写真を楽しみたいと思っています。
最近気になる7つのこと
- 1. 面白かった映画
- 『TAR/ター』(トッド・フィールド監督)
- 2. よく聞いている音楽
- The Specials
- 3. 好きな本
- ーー
- 4. 注目しているアーティスト
- ーー
- 5. お気に入りの場所
- 新宿御苑の温室
- 6. 最近買ったもの
- 河野源さんのブックエンド
- 7. 気になっている撮影機材
- FUJIFILM GW690
1982年生まれ。慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。ロンドン大学ゴールドスミス校でファインアート専攻後、メディア学修士修了。 「美術手帖」「ARTnews JAPAN」編集部などを経て、フリーのエディター・ライター。