作品をつくるときのインスピレーション
2013年から8年間続けていた「笑いの山脈」というプロジェクトがあるのですが、芸人さん達のギャグを中心にしたポートレイトのシリーズです。3年ほど住んでいたニューヨークから帰国したときに、雑誌を見ていたら谷啓さんが出ていて、撮りたいなと思ったんですよね。谷さんといえばやっぱり「ガチョーン」だよな……と考えていたら、その半年後くらいに亡くなられてしまった。二度と会えないんだ、ガチョーンを写真で残したかったなとすごく思って、名作ギャグを写真で残そうと始めたんです。 本当にたくさんの芸人さんに協力いただいたプロジェクトなのですが、一つのギャグを大切にして、人を笑わせることに人生を捧げているってすごいですよね。カメラマンとしての自分を照らし合わせてみて、すごく学ぶことがありました。
僕にとって、何か新しい作品をつくるときに直感的に何かがひらめくというのは、そうあることではありません。もちろん今も写真集や展示を見るのは好きですが、20~30代の頃に写真集をとにかく見まくっていたときのように、それが直接インスピレーションになるということはほぼない。ただ、いろんな情報をスマホなんかで見ていると、「あれ? さっきこう見えたんだけどな」という単純な見間違えが時々起きて、自分がエラーを起こして勘違いしたことにハッとさせられることがある。インスピレーションというよりは、そういう見間違えって面白いなと思ったりします。
最近は、Chat GPTを使うこともあるんですよ。正確には「使う」というよりも、例えば写真集を制作する際などに、考えていることをうまく言語化できない、でも言語化できたほうが作品が強くなるなと思うことがあるので、僕はこれくらいぼんやり考えているんだけど……と会話する相手として考えています。今は、生成AIはわりと“普通の人”で、最大公約数的な返答をしてくる印象なのですが、どちらかというと自分が入力する言葉のセンスを問われていると感じます。結局は自分の言語能力しだいだと思うので、もう少し遊んでみようと思っているところです。でも、作品性に強度を持たせるためのパートナーになってくれたらいいなと、すごく前向きに捉えていますね。
「いいお店」のような現場にしたい
現在、仕事では広告の案件に関わることが多いのですが、仕事をするうえで心がけていることは、まず、スタジオの中ではセットをきれいに組むことは徹底します。そして、被写体の人にも心地よくあってほしいし、クライアントさんには写真がいいなと思ってもらえるようなものをつくる。皆の思い出に残るような撮影にしたいなと毎回思います。今後、AIで画像生成できるものが多く出てくる時代です。そのなかでわざわざ皆が集まって撮影するわけだから、関わる人たちにとって「いい一日」であってほしい。ある意味、お店のような感覚というか。「ああ、いい店に来たなあ」「また来たいね」と、そんな気持ちになって帰っていただけたら最高ですね。
最近気になる7つのこと
- 1. 面白かった映画
- 『アステロイド・シティ』(ウェス・アンダーソン監督)
- 2. よく聞いている音楽
- ドミ&JD・ベック
- 3. 好きな本
-
千葉雅也『現代思想入門』
柴田書店編『だしの研究』 - 4. 注目しているアーティスト
- Shohei Takasaki
- 5. お気に入りの場所
- ビストロ「キリゲリ」のカウンター
- 6. 最近買ったもの
-
上田義彦さんの写真、マルセル・ブロイヤーの椅子、
井上七海さんの絵画、BONIQの低温調理器、氷嚢 - 7. 気になっている撮影機材
- アプチャー Electro Storm XT26
1982年生まれ。慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。ロンドン大学ゴールドスミス校でファインアート専攻後、メディア学修士修了。 「美術手帖」「ARTnews JAPAN」編集部などを経て、フリーのエディター・ライター。